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浅田次郎 「日輪の遺産」の感想です。

浅田次郎「日輪の遺産」☆☆

日輪の遺産

自己破産が間近だという不動産屋の丹羽明人は、競馬場で老いた男性真柴と出会った。

ひょんな事から真柴の臨終に立会った丹羽は、真柴から一冊の手帳を託される。

そこには旧日本軍が隠した時価200兆円になるという財宝にまつわる話が記されていた。

戸惑う丹羽が病院で真柴の遺体といる時に現われたのは、市のボランティアだという海老沢という男と、真柴の大家だと名乗る如何にも一癖もふた癖もありそうな金原という老人だった。


ここまで来れば、どう考えても旧日本軍の財宝を巡って様々な人間が宝探しに狂騒する話が展開されるに違いないと思います。

特に金原という腹黒そうな老人は怪しい。更にそんな期待を裏切らない、金原からの不可思議な申し出が丹羽にあったりします。

ところがこの作品は、そんな分かりやすい展開にはなりません。

物語の主題は、宝探しというよりも戦中・戦後にかけての戦争秘話であり、当時の人々がいかに自分を犠牲にして生きてきたのかという事が展開されていきます。

祖国復興のために極秘任務につく軍人や勤労動員の女生徒たち、更には戦中戦後を懸命に生き抜いた人々の自己犠牲の末に、こうして今の豊かな生活を享受している我々がいる、とまではあからさまに主張されてはいませんが、そんな雰囲気があります。

ラストの方では胸が熱くなる感動作で、予想した以上に良い作品でした。