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浅田次郎 「おもかげ」の感想です。

浅田次郎「おもかげ」☆☆☆

おもかげ

65歳になり関連会社の役員として定年を迎えた元総合商社のエリート・サラリーマン竹脇正一は、送別会の帰りに地下鉄の車内で倒れ集中治療室に運びこまれた。

同期入社で社宅住まいの頃には仲の良かった本社の現社長、工務店で働く苦労人で高校中退の娘婿、苦労をともにしてきた幼馴染で親友の工務店社長などが病室を訪れるが、正一の意識は戻らず、手術ができるような状況ですらなかった。

そうした中で病室で目覚めた正一は、ベッド脇に座っていた謎の老女マダム・ネージュに誘われて、新宿の高層ビルにあるレストランに出かけて食事をした。

夢うつつのようだが妙に現実感のある中で、謎の女性との会話を楽しみながら、自分の過去を回想する正一。

楽しい時を過ごしていつの間にか病室に戻った正一は、意識はあるものの身体は動かせず、医師・看護師・家族・見舞客の話す言葉は聞こえるものの反応することが出来ない。

そうしているうちに、また新しい出会いがあり正一は自分の過去を振り返る。


クリスマスの日、乳飲み子で名前もないまま捨てられ、孤児院で育ち、苦労して生きてきた竹脇正一が、危篤に陥った状況で様々な人と不思議な出会いをして、過去に遡って自分の人生を振り返りながら人生の意味を考える、というような内容の作品です。

昭和に生まれた、世代が近い管理人としては、妙に懐かしさを感じる景色や時代描写が心を打ちます。

不幸な生い立ちだったし、色々なことがあったけど、その時その時を一所懸命に生き抜いて、けっして悪い人生ではなかったと思う正一の潔さと、病室で眠る彼の前に現れる夢のような世界の人たち。

時折涙が出てくるのは、管理人もそれなりに歳を重ねてきたからでしょうか。

少し冗長な気もしますけど、平成の泣かせ屋・浅田次郎らしい作品でした。